よみがな　あり｜なし

西暦(せいれき)の年月日(ねんがっぴ)から曜日(ようび)を算出(さんしゅつ)する方法(ほうほう)として有名(ゆうめい)なのが「ツェラーの公式(こうしき)」です。銀行(ぎんこう)などでも利用(りよう)されているほど信頼性(しんらいせい)が高(たか)く、なによりも年月日(ねんがっぴ)を代入(だいにゅう)するだけで曜日(ようび)が算出(さんしゅつ)できるというとても使(つか)い勝手(がって)の良(よ)い公式(こうしき)です。
ですが、「ツェラーの公式(こうしき)」にはひとつ注意事項(ちゅういじこう)があります。有効範囲(ゆうこうはんい)が1583年(ねん)から3999年(ねん)となっていることです。

上限(じょうげん)の3999年(ねん)は、まあ計算限界(けいさんげんかい)の有効範囲(ゆうこうはんい)としてあり得(え)そうな数字(すうじ)ですから納得(なっとく)もできそうなものですが、下限(かげん)となっている1583年(ねん)は中途半端(ちゅうとはんぱ)な数字(すうじ)です。

どうして下限(かげん)が1583年(ねん)となっているのでしょう？

これを知(し)るためには、計算(けいさん)では窺(うかが)い知(し)れない暦(こよみ)の歴史(れきし)を紐解(ひもと)く必要(ひつよう)があります。

そもそも、暦(こよみ)というものが誕生(たんじょう)して間(ま)もないころ、暦(こよみ)は今(いま)のように誰(だれ)もがその恩恵(おんけい)を享受(きょうじゅ)できるものではありませんでした。暦(こよみ)は、農耕(のうこう)においては種(たね)まきや収穫(しゅうかく)の時期(じき)を知(し)るための大事(だいじ)な指標(しひょう)でしたから、西暦(せいれき)（グレゴリオ暦(れき)）の１００年(ねん)くらいまでは、その時(とき)のローマ皇帝(こうてい)が即位(そくい)する度(たび)にその都度(つど)「今日(きょう)をグレゴリオ暦(れき)○年(ねん)○月(がつ)○日(にち)とする」と好(す)き勝手(かって)に決(き)めていました。暦(こよみ)は時(とき)の権力者(けんりょくしゃ)の権力(けんりょく)を象徴(しょうちょう)する物(もの)でもあったのです。

しばらくして歴史(れきし)が移(うつ)り変(か)わると、西暦(せいれき)（グレゴリオ暦(れき)）の決定権(けっていけん)は教会(きょうかい)へと移行(いこう)しました。ヨーロッパの教会(きょうかい)には必(かなら)ず鐘(かね)つき堂(どう)がありますよね。あれは、教会(きょうかい)がまわりの人々(ひとびと)に時刻(じこく)を教(おし)えるためのものです。時刻(じこく)や暦(こよみ)は教会(きょうかい)が決(き)めていました。相変(あいか)わらず暦(こよみ)は権力(けんりょく)の象徴(しょうちょう)ではありましたが、教会(きょうかい)は恣意的(しいてき)に暦(こよみ)を運用(うんよう)しようとは思(おも)わなかったようです。

さらに時代(じだい)が進(すす)むとともに、天文学(てんもんがく)も進(すす)みます。観測装置(かんそくそうち)も進歩(しんぽ)して惑星(わくせい)の周期(しゅうき)が驚(おどろ)くべき精度(せいど)で観測(かんそく)できるようになり、１年(ねん)のほぼ正確(せいかく)な間隔(かんかく)が計算(けいさん)できるようになりました。それは同時(どうじ)に、いままで精度(せいど)の悪(わるい)いやり方(かた)で進(すす)めざるを得(え)なかった暦(こよみ)とのズレも、ほぼ正確(せいかく)に検算(けんざん)できたということです。検算(けんざん)すると、当時(とうじ)使(つか)われていた暦(こよみ)と正確(せいかく)な暦(こよみ)とでは10日(か)もズレていたことがわかりました。

当時(とうじ)のローマ・カトリック教会(きょうかい)はこれを深刻(しんこく)に受(う)け止(と)め、改暦委員会(かいれきいいんかい)に暦法改正(れきほうかいせい)を委託(いたく)しました。同委員会(どういいんかい)は作業(さぎょう)の末(すえ)に完成(かんせい)した新(あたら)しい暦(こよみ)を、1582年(ねん)2月(がつ)24日(か)に発布(はっぷ)しました。それは、1582年(ねん)10月(がつ)4日(にち)（木曜日(もくようび)）の翌日(よくじつ)を、1582年(ねん)10月(がつ)15日(にち)（金曜日(きんようび)）とするという驚(おどろ)くべきものでした。4日(か)の次(つぎ)の日(ひ)が10日(か)になるなんて、いまではとても考(かんが)えられませんよね。当時(とうじ)の人々(ひとびと)も大混乱(だいこんらん)したのではないでしょうか。記録(きろく)があれば見(み)てみたいものです。

結果(けっか)、1582年(ねん)10月(がつ)15日(にち)以前(いぜん)の暦(こよみ)は計算(けいさん)とはズレたものを運用(うんよう)していたという歴史上(れきしじょう)の現実(げんじつ)がありました。
これで「ツェラーの公式(こうしき)」の有効範囲(ゆうこうはんい)の下限(かげん)が1583年(ねん)となっている理由(りゆう)がわかりますね。ツェラーの公式(こうしき)に下限(かげん)以前(いぜん)の年月日(ねんがっぴ)を代入(だいにゅう)しても曜日(ようび)は出(で)てきますが、実際(じっさい)の歴史上(れきしじょう)の曜日(ようび)とは異(こと)なるので使(つか)えないということになるのです。

1582年(ねん)10月(がつ)15日(にち)以前(いぜん)の暦(こよみ)はかなりあやふやになります。
遡(さかのぼ)れば遡(さかのぼ)るほどに歴史上(れきしじょう)のグレゴリオ暦(れき)と計算上(けいさんじょう)とのそれはズレていきます。

最後(さいご)にひとつ大命題(だいめだい)。西暦(せいれき)０年(ねん)はイエス・キリストが生(う)まれた年(とし)とされていますが、それは計算上(けいさんじょう)の西暦(せいれき)で言(い)うと何年(なんねん)なのか。もうひとつ。キリストが生(う)まれた日(ひ)は何曜日(なんようび)だったのか。
実(じつ)はこれ、単純(たんじゅん)そうに見(み)えてかなりの難問(なんもん)です。
歴史学者(れきしがくしゃ)でも答(こた)えを出(だ)すのは難(むずか)しいでしょう。

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